天然マイカ ── キラキラ輝く化粧品の裏に潜む児童労働の闇。
- moekyra
- 2020年7月22日
- 読了時間: 5分
更新日:2024年11月4日
「クルエルティフリー(=残虐な行為のない)」という言葉は、一般的に動物実験の未実施を意味するが、近年、特に発展途上国の児童への“クルエルティー”が懸念されている。特に美容界で少しずつ明るみになってきているのが、コスメやスキンケアに頻繁に用いられる天然成分「マイカ」の採掘過程で起こる児童労働の搾取。クリーンなブランドを含む、数多くの美容ブランドが使用している天然マイカの闇に迫る。
天然マイカ vs. 合成マイカ。
自然界に存在する天然マイカは、日本名で雲母(うんも)と呼ばれ、採鉱して得られる鉱物。キラキラとした光沢があり、飛行機・自動車のコーティング塗料や、電気機器、プラスチックの補強材として幅広く使用されている。化粧品の一般的な原材料でもあり、マニキュアや、ファンデーション、マスカラ、リップなどに含まれる。一方で、合成マイカは、通称「合成フルオロフロゴパイト」のことで、酸化アルミニウムや酸化マグネシウムを溶融して、ラボで人工的に作られ、天然マイカやプラスチックラメの代替品として使用される素材だ。天然マイカはくすんだ色合いを出し、合成マイカは無色透明で明い輝きを放つ。
コスメ・スキンケアに配合される現状。
美容ブランドが、合成マイカではなく、天然マイカを利用する大きな要因は、天然マイカが合成マイカより格安であるため。また、既存の製品を天然マイカから合成マイカに切り替える際、新たな実験が必要となり、手間がかかることが上げられる。よって、現在、合成マイカを使用しているのブランドは、ごく少数だ。
もちろん、公正に採取された天然マイカを使用しているブランドも。ラ・ブーシュ・ルージュ(La Bouche Rouge)のハイライター「La Lumière」には、インド産の天然マイカが含まれている。これは、天然マイカのサプライチェーンにおける児童労働の排除を実現するべく2017年に発足された「雲母イニシアチブ(Responsible Mica Initiative)」から供給されており、人や地球に負担をかけない持続可能な方法で製造されている。Aether Beauty(エイサー・ビューティ)では、児童労働の可能性をゼロにするべくアメリカ産のエシカルなマイカ、または合成マイカを使用。マイカ問題に真っ向から立ち向かってきたラッシュ(LUSH)は、さまざまな調査や取り組みを行った後、2018年より天然マイカの使用を停止している。
なぜ天然マイカの使用が疑問視されているか。
世界に流通している天然マイカの25%は、インド東部のジャールカンド州とビハール州の鉱山から採掘されているが、その過程で子どもたちが危険な労働を強いられている。貧困層が暮らす鉱山付近の子どもたちは学校へ通うことなく、毎日のように鉱山で働いているのが現状。また、狭い鉱山内に容易に入ることができるという理由から、10歳前後の児童らは、死者や負傷者が後を絶たない危険な仕事を任せられる。SOMOは、「あらゆる種類の危険作業の中で、鉱業は子どもたちにとって最も致命的な危険を伴う部門だ」とマイカ採掘に関するレポートを発表。ジャールカンド州とビハール州の鉱山で不法に働く子どもの数は、22,000人を超えるという。
クリーンな美容ブランドでも天然マイカを使用しているブランドが多く、この問題は、雲母イニシアチブ(Responsible Mica Initiative)により、明るみになり始めたが、一般的にはあまり知られていない。その理由は、ブランドが表向きに“サステナブルな天然マイカ”という名目で仕入れいることが上げられる。カラクリは単純で、天然マイカの主な原産国であるインドで、児童労働が禁止されているにも関わらず、前述のように貧困地域の子どもたちは、不法で働く必要性に迫られているからだ。インドのマイカ採掘が違法で行われているという事実は、数字にも現れている。公式では年間1万5千トンの天然マイカを生産しているにも関わらず、インドは13万トンの天然マイカを輸出しているのだ。
児童労働の搾取の問題を明るみにしたドキュメンタリー映画『BEHIND THE GLITTER: CHILD LABOUR IN MICA MINING』*では、ジャーナリストのブランド・バレンツェリ(Brando Barenzelli)が、インドのマイカ鉱山からヨーロッパの主要ブランドの研究所まで、マイカのサプライチェーンを追跡。採掘労働にあたる8歳の子どもたちと、悲惨な労働条件に目を向けた。また、天然マイカの現状をグリーンウォッシュ(環境に配慮していると見せかけること)するサプライチェーンの戦略を明らかにし、調査の結果をもとにヨーロッパの化粧品メーカーに立ち向かっている。
【成分表の確認方法】
合成マイカ(児童労働無し) | 天然マイカ(児童労働の可能性) |
合成マイカ(Synthetic Mica) | マイカ(Mica) |
合成フルオロフロゴパイト(Synthetic Fluorphlogopite) | C1 77019 |
ケイ酸アルミニウムカリウム(Potassium Aluminum Silicate) |
合成マイカと天然マイカとでは、成分表に表示される方法が異なる。そのため、購入前にラベルを確認することで、児童労働搾取の可能性が高い天然マイカ使用の有無を確認することができる。まずは、自宅にあるコスメやスキンケアをチェックしてみよう!
【解決方法はあるのか】
デジタルメディア『Refinery29』のシニア・ビューティ・エディター、レクシー・レザック(Lexy Lebsack)が、インド・ジャールカンド州にある天然マイカの鉱山を訪れるドキュメンタリー動画では、採掘を行う男性が「1Kgあたり、30〜40ルピー(約42〜52円)の収入を得ることができると生活が楽になり、子どもたちを学校に送ることができる」と語っている。ちなみにドキュメンタリーでは、彼の1日の収入が2ドル〜8ドル(約210円〜850円)であることを伝えている。このように、労働者らは低賃金の生活を強いられ、貧困に苦しんでいるのだ。
消費者としては、まず、知ることから。そして、天然マイカのサプライチェーンにおける児童労働の排除に携わる雲母イニシアチブ(Responsible Mica Initiative)などを通じて公正に取得した天然マイカを選択しているブランドや、商品ラベルに合成マイカと記載しているアイテムを選ぶことで、問題解決の一歩を踏み出すことができるはずだ。